017 ハロウィン/北ノ町の物語


【あらすじ】
 東京在住・土木会社の事務員でアパート暮らしをしていたOL・鈴木クロエは、奔放な母親を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが、母親の遺言を読んでみると、実はお爺様がいることを知る。思い切って、手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきた。そしてゴールデンウィークに、その人が住んでいる北ノ町にある瀟洒な洋館を訪ねたのだった。
 お爺様の住む北ノ町。夜行列車でゆくその町はちょっと不思議な世界で、ゆくたびに催される一風変わったイベントがクロエを戸惑わせる。
 最初は怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上の魅力をもった瀬名さんと、イケメンでピアノの上手な小さなIT会社を経営する従兄・浩さんの二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ……。そんなオムニバス・シリーズ。

    17

 今年の十月二十八日が満月。そのあたりがハロウィンになります。……ハロウィンといえば南瓜。幼稚園にいたころ、先生がその季節になると中身をくり抜いて飾って下さったのを思い出します。ハロウィンというのは、ヨーロッパ版の〝お盆〟だと先生はおっしゃいました。そのためなのでしょうか、三つつくった南瓜の行燈は、みんなお盆に載せられていたのを憶えています。――もともとはヨーロッパの古い部族・ケルト人が行っていた祖先供養の祭りだったのだとか。
 むかし、寝台列車が走っていたころ、東京でOLをしている私・鈴木クロエは、ときどき、それに乗って、お爺様のいる北ノ町にいったものです。著名な彫刻家であるお爺様が住んでいたのは牧師館を改装した丘上の二階洋館。地下には隕石が落下して突き刺さった衝撃石が隠されています。――前回、北ノ町にいったときは、謎めいた石から、触手のようなものがでてきて、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんと一緒に屋根上まで逃げる羽目になって大変でした。
 お爺様と父が怪物を駆除。父の部下である公安委員会の人たちによる調査が終わり、お爺様は壊された洋館を元通りに修理。お爺様ときたら、「新装開店記念だからぜひ遊びにきなさい」といってききません。――仕方がないです。はい、うかがいますね。
 金曜日に仕事が終わって上野発の夜行列車に飛び込み、そこで一睡。朝になると北ノ町に到着です。煉瓦でできた駅ホームから遠くに見える切り立った山の頂にはうっすらと雪が被っていました。
 毎度、駅に着くと、顧問弁護士の瀬名さんか従兄の浩さんが車で迎えにきてくださいます。瀬名さんは仕事がお忙しいとのことで、今回は浩さんがお出迎えです。
 無人駅のターミナルに停車しているのは、浩さんの自家用車セダンだけ。
 ヨーロッパの映画にでてくる運転手みたいに、ドアを開け、私を後部席に乗せて浩さんは車のアクセルを踏みました。
「クロエ、変わりなかった?」
「お陰様で相変わらず。浩さんは?」
「僕も変わらずさ。瀬名さんや、お爺様もね」
私はお爺様がこないだ退治した怪物のことがやはり気になります。
「怪物がでた地下室は?」
「ああ、公安委員会の人が業者に手配してセメントを流し込んでおいた。だから触手はもうでてこない」
 セダンが玄関前に停まりました。
 そこには一メートルくらいはあるでしょうか、中身をくり抜いた、大きな南瓜がハロウィン仕様にして一つ置いてありました。
 浩さんがノックをして中に入ろうとしたときのことです。
 南瓜が左右にカタカタ揺れました。
「えっ、風?」
 リビングに入りました。
 暗くなっていて、暖炉と燭台の蝋燭が、部屋に怪しげな陰影をつくっています。
 ピアノが……勝手に鳴りだしました。
 突然。
 開けたドアが勝手に閉じて勢いよく閉まりました。
 そのドアの陰に……。
 きゃぁあああ。
 いえ、予想していましたよ。けど、分かっていてもビックリ。
 お爺様ったら、またまた、私を驚かせようとして……でもね、大南瓜って、ムード的にやっぱり怖いです。南瓜には電動式の仕掛けがあって人がくると左右に揺れるようになっていました。ピアノは自動演奏。
 おちゃめ過ぎます。
     了


【登場人物】
●鈴木クロエ/東京在住・土木会社の事務員でアパート暮らしをしている。
●鈴木三郎/お爺様。地方財閥一門で高名な彫刻家。北ノ町にある洋館で暮らしている。
●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住んでいる。
●瀬名玲雄/鈴木家顧問弁護士。
●小母様/お爺様のお屋敷の近くに住む主婦で、ときどき家政婦アルバイトにくる。
●鈴木ミドリ/クロエの母で故人。奔放な女性で生前は数々の浮名をあげていたようだ。
●寺崎明/クロエの父。母との離婚後行方不明だったが、実は公安委員会のエージェント。
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ジャンル : 小説・文学

016 満月/北ノ町の物語

 

【あらすじ】
 東京在住・土木会社の事務員でアパート暮らしをしていたOL・鈴木クロエは、奔放な母親を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが、母親の遺言を読んでみると、実はお爺様がいることを知る。思い切って、手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきた。そしてゴールデンウィークに、その人が住んでいる北ノ町にある瀟洒な洋館を訪ねたのだった。
 お爺様の住む北ノ町。夜行列車でゆくその町はちょっと不思議な世界で、ゆくたびに催される一風変わったイベントがクロエを戸惑わせる。
 最初は怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上の魅力をもった瀬名さんと、イケメンでピアノの上手な小さなIT会社を経営する従兄・浩さんの二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ……。そんなオムニバス・シリーズ。


    16 満月

 九月の終わり。
 自動車のエンジン音。
 スクランブル交差点の鳥を真似たブザー。
 人々がうごめく靴音。
 出先から、会社に戻ろうとした私は、電車が通り抜ける轟音に揺れる高架橋下のアーチをくぐり抜けたとき、ガードレールのある歩道をふと立ち止まり、ふと空を見上げました。
 関東平野とはいうけれど、東京の実際は山あり谷ありで、私鉄路線は尾根の斜面に林立したビルの谷間を抜けて走り、そこから私は、兎というより、杯のようにみえる陰のある満月をみることになりました。
 都会の喧騒のなかにいるはずなのに、なんでしょう、この寂寥感は。
 するとです。
 遠くから遠吠えがしているではありませんか。
 どこかの犬?
 一頭ではなく群れをなしている。
 なに?
 私は怖くなり駆けだしました。
 雨雲にできた晴れ間からたまたま月が顔をだしているのでしょうか。そこから、しずくがおちてくるかのように、私の頬に雨粒が当たったのです。歩道に沿って駆けだし、またつぎのガードレールを抜け、次は、小さな神社の前を通り抜けました。
 なんなの、鳥居の後ろにいくつもある双眸は?
 いけない。これは罠!
 ――追い込まれるかのように、地下鉄に逃げ込みました。
 人がいない自動改札口に携帯をかざし通り抜け、そこから、ポスターが貼られた四角い通路にでた私。走る、走る、ただ走る。背中から獣たちが駆け寄り、私の背中から、襲い掛からんばかりに。
 あっ。
 列車が。
 なんというタイミングの良さ。
 ホームにたまたま停車していた地下鉄列車に私は駆け込みました。
 ドアが閉まったとき、日本に、というより東京に、いるはずのない狼の群れが、悔しそうに窓ガラスに体当たりしては弾き飛ばされました。
 そして列車は、振り払うかのように、発車したのです。
 しかし。車両の手すりにつかまっていた他の乗客。――スーツ姿のサラリーマン、OL、ブレザーの学生、ブラウスにカーディガンを羽織った主婦、みな無表情で異様に大きな魚のような目をした、人の形に類した人外の生物〈亜人〉の様相をしているではありませんか。
 パニックを起こした私は、頭に両手をやって、床にしゃがみ込むより手立てはありませんでした。

「あのなあ、クロエ……。ちゃんと戦わないと駄目じゃないか」
 呆れ顔をした、パナマ帽にスーツをきた背の高い人は、公安委員会に勤務する父で、エキストラの魚眼人は部下の方々の扮装。狼役は警察犬・シェパード――私は父から護身用スタンガンを手渡されていたのですが、やっぱり、戦うのは無理みたいです。
     了

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015 渚/北ノ町の物語

【あらすじ】
 東京在住・土木会社の事務員でアパート暮らしをしていたOL・鈴木クロエは、奔放な母親を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが、母親の遺言を読んでみると、実はお爺様がいることを知る。思い切って、手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきた。そしてゴールデンウィークに、その人が住んでいる北ノ町にある瀟洒な洋館を訪ねたのだった。
 お爺様の住む北ノ町。夜行列車でゆくその町はちょっと不思議な世界で、ゆくたびに催される一風変わったイベントがクロエを戸惑わせる。
 最初は怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上の魅力をもった瀬名さんと、イケメンでピアノの上手な小さなIT会社を経営する従兄・浩さんの二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ……。そんなオムニバス・シリーズ。


    15 渚のピアノ・コンサート

 残暑お見舞い申し上げます。鈴木クロエです。
 八月のお盆に亡き母の実家・北ノ町を訪ねお墓参りしてきました。 北とはいっても、夏になればそれなりに暑く、残暑もあります。潮目が変わって、海水が冷たくなるのとクラゲがでてくるので、地元の人は泳ぎませんが、海水浴期間は続いていて、少し離れた町から、泳ぎにきたり肌を焼きにくる人たちが浜辺に寝そべっていたりして、まだ夏の名残があります。
 こちらにくる直前、東京の会社・宿舎で、背の高いハンサムな従兄・浩さんが、
「クロエ、僕のピアノ・コンサートがあるんだ。よかったらきてくれよ」
 というわけで、早速、いってきました。
 コンサート会場というのは、花火大会が終わったあとの浜辺。
 浩さんは見物客の大半が帰ったあとに、電子ピアノをやりました。
映画『戦場のピアニスト』でもつかわれたショパン「夜想曲 第20番」のジャズアレンジ。グランド・ピアノで演奏しなかったのは、音響が悪い浜辺では、潮騒音がかき消されてしまうのと、潮風が高価なグランド・ピアノ自体を痛めてしまうからです。曲はアンプを介し、スピーカーで流れてゆきます。
 長い指が滑らかに鍵盤を敲いている。
 素敵な曲。
 白いスーツをきた浩さんにスポットが当てられ、浩さんが輝いてみえた。
 ピアノの前には、二十人分の折り畳み椅子があって、私の隣にいるのは、お爺様の顧問弁護士・瀬名さん。
 そこで私はいつの間にか、父とお爺様が、席を外していることに気づいたわけです。
 波が砕ける音。
 ピアノの調べ。
 でも微かに悲鳴のようなものがきこえてきます。
 コンサートのクライマックスで、花火が打ち上がりました。
 あ。
 やっぱり。
 波間で、父とお爺様が、長さ二メートルくらいある、ゲームにでてくるようなバスター・ソードを海中に突き刺しているではありませんか。
――たぶん、浜辺には〝教団〟に関係したモンスター〝魚眼人〟が私をみつけて襲いかかろうとするのを、文字通り瀬戸際で始末している。
 〝教団〟は、彼らの天敵である鈴木一門でネックになっている私を狙っている。
 けど、公安委員会の父、それから牧師館跡地・地下室にある〝隕石〟を守ってきたお爺様が、私を囮につかって駆除しているんだ。
 その証拠に、覆面パトカーとかワゴンとか警察車両が防波堤に沿った道路にびっしり駐車して待機している。うちのスーパー・ヒーローな父とお爺様が、人知れず、モンスターを狩って、公安委員会職員がその遺骸を回収するみたい。
 演奏後、町長さんとか議員さんとか、奥様をエスコートした町の名士の皆さんが拍手なさっているのだけれど、気づいていらっしゃるのかしら。
 浩さんが立ち上がって一礼。
 拍手喝采。
「アンコール! アンコール!」
 コンサートではお約束ですけどね。
 素敵なコンサートだったけど、なんだか……。


【登場人物】
●鈴木クロエ/東京在住・土木会社の事務員でアパート暮らしをしている。
●鈴木三郎/お爺様。地方財閥一門で高名な彫刻家。北ノ町にある洋館で暮らしている。
●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住んでいる。
●瀬名玲雄/鈴木家顧問弁護士。
●小母様/お爺様のお屋敷の近くに住む主婦で、ときどき家政婦アルバイトにくる。
●鈴木ミドリ/クロエの母で故人。奔放な女性で生前は数々の浮名をあげていたようだ。
●寺崎明/クロエの父。母との離婚後行方不明だったが、実は公安委員会のエージェント。

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014 笹舟/北ノ町の物語


【あらすじ】
 東京在住・土木会社の事務員でアパート暮らしをしていたOL・鈴木クロエは、奔放な母親を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが、母親の遺言を読んでみると、実はお爺様がいることを知る。思い切って、手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきた。そしてゴールデンウィークに、その人が住んでいる北ノ町にある瀟洒な洋館を訪ねたのだった。
 お爺様の住む北ノ町。夜行列車でゆくその町はちょっと不思議な世界で、ゆくたびに催される一風変わったイベントがクロエを戸惑わせる。
 最初は怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上の魅力をもった瀬名さんと、イケメンでピアノの上手な小さなIT会社を経営する従兄・浩さんの二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ……。そんなオムニバス・シリーズ。
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   14 笹舟
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 鈴木クロエです。
 猛暑が続く今年の夏はとても暑く感じるので、通勤時間を少し早め涼しい時間に出勤しています。
 暦は七月下旬になりましたけれども、思い出されるのは、なんといっても小学生時代の夏休みといったところでしょうか。
 作家をしていた母・鈴木ミドリは、けっこう忙しかったのですが、私のために時間を割いてくれたもので、その季節になると、海とか川とかに連れて行ってくれたものでした。なかでも記憶に鮮明に残っているのが、小学四年生のとき、多摩川を遡ったところに、母と何日かそこに滞在したときのことです。
 長くした髪の毛をワンピースに束ねた母は、自分とそろいのデザインの白いワンピースと縁のついた帽子を身に着けた娘の私を助手席に乗せ、都内からそこに向うとき、とてもご機嫌でドリカムのハミングしていました。
 ハイウェイを走る紅い軽自動車フロントガラス越しにみえる風景は、オフィスビルから住宅地に変わり、家々もだんだんとまばらになってきた山間で料金所になり、下道へ抜けて行きました。
 夏の空は、青空というよりも水色に近く、もわりとしている割に、木々の緑は明暗のコントラストが強くて印象派絵画みたいな感じ。母が運転する山間の渓谷に沿って走る道路を降りて、フランス窓のあるピンク色の壁をした二階建てのペンションの前に車を停めました。
 ペンション経営をなさっていたご夫妻は、最近皺ができたばかりという感じで、泊まり部屋のある二階にあがるとき、トントンとリズミカルに上って、案内してくれました。
 私と母が寝るダブルベッド、原稿をパソコン執筆するための机、冷蔵庫。それから眼下のせせらぎを眺めるための大きな窓があるのだけれど、テレビは故意に置かれていない、水色で統一した瀟洒な部屋でした。
 お昼は、ペンションのベランダにあるパラソルがついた席でパスタのアラビアータを頂いた母と私。食後は痩せた母の長い手を引っ張って、川原に降りて行きました。大好きな水遊びです。
 浅瀬では、鷺が、幅二十メートルくらい先にある向こう岸にいて、こっちをみている後を、セキレイが川原を、ちょこちょこと駆けて行きました。
 私たちはくるぶしまでつかって水をかけあい、岸辺に生えている笹で舟をつくって川に浮かべました。
 母に教わってつくった私の笹舟は不恰好ですが、それでも、よたよたと母の笹舟に着いて行くのが面白く、私はご機嫌で、ワアッと思わず声をあげていました。
 そこで。
 突然、驚いた顔をした母が、人丈以上はありそうな川の   
 深みを凝視して、
「ねえ、クロエ、石投げをしよう」
 と切り出しました。
 素直にうなずく私。
 まずは高校時代ソフトボール選手だったという母のお手本。母の投げた小石が、水面を何度も跳躍して、向こう岸の茂みに消えてゆきます。
 真似する私ですが、子供なので腕の筋肉が弱く、なかなか母のようには行きません。
 私が小石を投げる間、母はずっと、川の深みを凝視していました。
 笹舟はというと、中洲の先端にある岩のところで引っかかっています。
 ペンションに引き返す際、私を抱き上げる直前、母は野球用ボールくらいの大きさの石を拾って、笹舟から一メートルばかり上流側になったところに投げたのでした。
 ドボンという音ではなく鈍い音が。
 それから。
 いつものようにハミングする母が不自然に感じました。
抱っこされた私といえばさりげなく母の手で双眸を塞がれていましたし……。
 ペンションに戻る途中の道で、釣りにきた知らない小父さんが、母と私に冗談半分にいいました。
「この辺の川には河童がいて小さな子をさらって行くって話がある。気をつけなさい」
「ナイス・ジョーク!」
「冗談じゃなく、実際に川遊びしていた子供がいなくなっているし、河童をみかけたことがあるって釣り仲間もけっこういる」
「はいはい」
 母の表情は、笑っていたけれど、引きつっていました。
 河童。
 ――北ノ町のお爺様と敵対するメヴィウス教団には、魚のような眼をした信者が多くいます。ヒロィック・ファンタジーの主人公を地でやっているお爺様の血を引く母は剛肩で、なんとく、深みに潜んでいた魚眼人が幼い私をさらおうとして頭をだしたところを母が小石をぶつけて撃退し、沈めたような感じがするのです。
 あのときの笹舟は、母の投げた石で沈んだのか、それとも、波紋で中洲から外れ、流れにのり下って行ったのか、不思議と今でも気になるところです。
 それではまた。
 By Kuroe
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【登場人物】
●鈴木クロエ/東京在住・土木会社の事務員でアパート暮らしをしている。
●鈴木三郎/お爺様。地方財閥一門で高名な彫刻家。北ノ町にある洋館で暮らしている。
●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住んでいる。
●瀬名玲雄/鈴木家顧問弁護士。
●小母様/お爺様のお屋敷の近くに住む主婦で、ときどき家政婦アルバイトにくる。
●鈴木ミドリ/クロエの母で故人。奔放な女性で生前は数々の浮名をあげていたようだ。
●寺崎明/クロエの父。母との離婚後行方不明だったが、実は公安委員会のエージェント。

テーマ : 自作小説(ファンタジー)
ジャンル : 小説・文学

013 裏道/北ノ町の物語

【あらすじ】
 東京在住・土木会社の事務員でアパート暮らしをしていたOL・鈴木クロエは、奔放な母親を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが、母親の遺言を読んでみると、実はお爺様がいることを知る。思い切って、手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきた。そしてゴールデンウィークに、その人が住んでいる北ノ町にある瀟洒な洋館を訪ねたのだった。
 お爺様の住む北ノ町。夜行列車でゆくその町はちょっと不思議な世界で、ゆくたびに催される一風変わったイベントがクロエを戸惑わせる。
 最初は怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上の魅力をもった瀬名さんと、イケメンでピアノの上手な小さなIT会社を経営する従兄・浩さんの二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ……。そんなオムニバス・シリーズ。


   13 裏道

 こんにちは。
 鈴木クロエです。季節は梅雨。もうすぐやってくる、夏本番にむけて、長く伸びた髪を思い切ってショートにしてみました。
 お爺様たちのいる北ノ町から、東京に戻ってしばらく経ちました。お爺様・彫刻家鈴木三郎が住んでいる牧師館は、地下室から象みたいなモンスターがでてきたため、公安委員会が調査するため、しばらくゆくことができません。
 雨合羽をきた私は、自転車に乗って、最近覚えた裏道である会社社宅と会社との間を自転車で往復しています。爽やかな色合いの白・青・紫に咲く陽花が、軒や線路際に連なっているのが綺麗です。鬱陶しい季節ではありますが、これをみるのがちょっと楽しみ。
 さて。
 例のカルト系宗教団体メビウスの件です。
 うちの家族で、もっともか弱いと考える私をターゲットにして、隙あらばと狙ってくる感じなのですが、実をいうとそれが、公安委員会で、それなりのポストに収まっている父の罠。さりげなく網の目のような警備体制をとっていて、襲撃してくる魚眼人を捕まえ、解剖実験室送りにしているとのこと。――父・寺崎明の方が邪悪なメビウス教団よりも悪魔的でよほど怖いです。
 父・寺崎明が所属する公安委員会の関係筋の話だと。
「捕えた教団の亜人たちの臨床試験結果は次の通りです。――まず魚眼人は、腕力があるのだけれども、知能指数が低いという特徴をもち、洗脳した一般人教徒に混じって、教団の下部階層にいます。つぎに中間幹部層にあたる、吸血鬼は知能指数が高く、魚眼人を指揮し、司祭階層を構成しています。最後に、教団指導部層にあたる司教・教主階層はいまだ正体不明で、先日、旧牧師館地下室から姿を現した象に似たモンスターはこのクラスが召喚したものと考えられます」

 退勤時間。
 その日も雨でした。
 住宅地の中を抜ける私鉄沿線の裏道を、自転車のペダルを漕ぐ私の後から、何者かがつけてくる気配がします。
 誰?
 私はスピードをあげました。
 けれど、怪しげな気配との距離は縮まりません。
 メビウス教団の亜人かモンスター?
 さらに私はペダルの回転を速く。
 敵はまだ私をつけている様子。
 自転車がシャーって音を立て、濡れた路面を走るタイヤで白くして軌跡をつくってゆきます。
 瞬きをしないどんよりとした感じの魚眼人。
 二本の前歯が牙になった吸血鬼。
 象に似た胴体で、鼻が多数の触手になったモンスター?
 どれだろう。
 あ、そんなことどうでもいい。
 もう、ついてこないで!
 そのとき下り通勤快速列車が。
 フォーン……。
 ガタンゴトン、ガタンゴトン……。
 嫌。
 追いついてきた。
 きゃあああっ。
 けれど視界に。
 雨傘を指した黒いスーツの人が歩いてくるのがみえると、背後からの気配は、フッと消えたのです。
 えっ、あれっ、瀬名さん?
 お爺様の顧問弁護士。
 こないだモンスターに屋根まで追い詰められたとき、子供のころは、年上の母に恋をしていたと私に告げた、一回り年が離れているけど、背が高くて、クールで、素敵な人。
 安心したら、なんだか、涙がでてきました。
「クロエさん、どうした?」
「瀬名さんこそ、どうして?」
「君のお爺様にいわれて、様子をみてきて欲しいって頼まれたんだ。……もっとも、自分も会いたかったというのはあるけどね」
 私は自転車を降りました。
 すると今度は上り通勤快速列車が。
 フォーン……。
 ガタンゴトン、ガタンゴトン……。
 目を閉じる私。
 瀬名さんの長い両腕が私の肩を抱きしめる気配。
 けど。
 やっぱり。
 なんだかそんな気もしていたんです。
「クロエ、しばらく顔をみなかったんで、けっきょく浩と一緒に上京してみたんだ」
 そう、大笑していたのは北ノ町のお爺様。
 横で一緒に笑っていたのはピアノが得意な従兄の浩さん。
「……」たぶん目を白黒させている私。
 自転車なみに走れるなんて、二人とも、なんて脚力なの!
 ある雨の日の出来事でした。

【登場人物】
●鈴木クロエ/東京在住・土木会社の事務員でアパート暮らしをしている。
●鈴木三郎/お爺様。地方財閥一門で高名な彫刻家。北ノ町にある洋館で暮らしている。
●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住んでいる。
●瀬名玲雄/鈴木家顧問弁護士。
●小母様/お爺様のお屋敷の近くに住む主婦で、ときどき家政婦アルバイトにくる。
●鈴木ミドリ/クロエの母で故人。奔放な女性で生前は数々の浮名をあげていたようだ。
●寺崎明/クロエの父。母との離婚後行方不明だったが、実は公安委員会のエージェント。

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